こんにちは和楽器メディアです!
皆さんは歌舞伎に様々な種類の和楽器が用いられていることを御存知でしょうか?様々な芝居に合わせて生演奏されているんです。
BGMや効果音の役割を担う和楽器、実はオーケストラのように舞台を広く使う事は少なく、6畳にも満たない黒御簾と呼ばれる狭い空間での演奏が多いのです。
しかしその限られた中で、1台で何役もこなすハイスペックな楽器があるのです!その幅の広さはまさに1作品に16役も演じ分けることができる声優「山寺宏一」さんのように!
その楽器の名はズバリ……大太鼓です!
大太鼓ってあの大きな太鼓?と、思った読者の方々も大太鼓の印象が変わるのではないでしょうか?大太鼓による曲目や、演奏効果の代表例を御紹介致します!
開演前に流れる曲「着到」の実はスゴい魅力とは?
着到は、歌舞伎では舞台が開演する30分前に黒御簾で演奏される曲目です。
着到とは一体なんのか?それは役者さんが楽屋に来たことを指すものだったと言われています。役者は、タイムカードのような役割の着到盤と呼ばれる関係者の名前が書かれた木板にピンを指して楽屋入りをします。それによって来てない人が一目で分かる仕組みなのです。昔は座頭がそのように楽屋入りをしたことを知らせる儀礼囃子が着到だったそうです。
今日では役者側もお客様側にも30分後に幕を開ける合図となっております。
着到の曲紹介
着到は、大太鼓、締太鼓、能管の3つで演奏されています。
ゆったりと始まったかと思いきや、徐々にテンポアップをして、スピード感のある曲になっているので、会場入りをすると気持ちが高揚し江戸時代へタイムスリップしたような感覚を覚えます。
また、大太鼓は最初と最後以外は全て奏者のアドリブとなっているので、注目して聴いていると興味深い発見があります!
諸説ありますが締太鼓の拍子は「テルテル ステツク」という口伝がありますが、これは「オタフク コイ コイ」という意味も持たせていて、お客様を福の神に例え招くという験担ぎの要素もあるそうです。
この曲はお客様には聴き流されがちですが、改めて聴くと新たな発見があるかもしれません!
着到とは逆に終了の曲「打ち出し」、実はとても失礼だった?
打ち出しは着到とは対で公演最後の演目が終わったあとに演奏される曲目です。
着到と比べあっけらかんとした印象を受けますが、そのお陰で芝居の余韻に浸っていたお客様もさぁ帰ろうと自然に促してくれる曲です。
しかしこの曲にはとっても失礼な意味が隠されてれいるのです…
打ち出しの曲紹介
打ち出しは大太鼓のみで演奏されます。始めは「ドロドロ…」と始まり、「デテケ デテケ…」と跳ねのリズムとなり、「テンテン バラバラ…」と続き、縁をうち「カラカラ…」と終わる非常に単純な拍子なのですが先程の着到と同じく口伝には意味があります。
なんと折角来てくださったお客様に「出てけ!出てけ!」と言っているのです!他にも「てんでバラバラ」に帰っていく情景を描写して、客席が「空」になることを表しています。
もちろん、劇場のスタッフは手厚くお客様をお送り致しますが、昔は拡声器等はなく、全てのお客様に伝えるためにこの曲を演奏して終演を伝えたそうです!
意味を知ると大変失礼な曲ですが、当時は酔っ払って中々帰らない人や、話し込んでいた人もこれを聴けばさぁ帰ろうとなる様を想像すると面白いですね。
大太鼓で奏でる独特な表現
大太鼓は曲だけでなく、自然や効果音等も演奏されます。
その代表例がこちらです!
水音
水音は樫の長撥を用い「ドンドンドン…」と途切れずに一定のリズムを刻み、川、堀、池などの水が流れる様子を表します。また、物が流れてくる様を印象付ける役割も担っています。また、音の速度を変えることで、水の流れの速さを表し、遅く叩けば小川、速く叩けば大川を意味します。
人や物が水に飛び込む時は左撥を返し持ち手側の太い方で1発叩き、そのまま鼓面に押し付け「ドンッ ドドド…」と細かく打ちます。それにより水面に水が飛び散るさまがよく現れています。
風音
風音は左撥を薄く鼓面にあて右撥で「ド、ド、ド…」と打ち、風の音の模倣ではありますが、静けさ、不安感、恐ろしさ等の演出効果も担うため高い技術を要する音です。
この音は風により揺れる戸袋や雨戸などが「カタカタ…」と揺れる様を表しているのです。これは強弱により、弱い風や突風のような強い風を表現しています。
雨音
雨音は「ドロドロン…」と不定期に叩くことで雨が家屋や傘などを打ち付ける音を表します。これも強弱によって小雨、大雨はたまた雷なども表現したりします。雷神が太鼓を背負っていることからも、雷が「ゴロゴロ…」となる様は当時から太鼓の音色に似ていると感じていたのだと思います。また写実的な描写の芝居では小石や豆を結びつけた団扇を振って音を出す雨団扇というものもあります。
浪音
浪音は左撥を鼓面に薄くあてつつ、右撥で「ドンドン…」と次第にクレッシェンド(徐々に大きく、強く)していき、「ズドン ドン」と浪が岸に寄せる様を表しています。何度も繰り返し打つことで干いては満ちる波の様子が再現されます。これも強弱によって大波小波を表現しています。
滝音
滝音は両方の撥を左手でまとめて握り鼓面に押しあて、右手に太い撥を持って「ドドドド…」と続けて打ち、水が高い所から滝壺へ打ち付けられ飛び散る様子を表しています。強弱によって大滝や小滝を表します。
山オロシ
山オロシは「ドロン ドン ドン…」と山から風が吹き下ろす様の描写ですが、同時に深山の壮大さ、荒々しさも表現しています。
幕明き、ツナギ、浅葱幕の振り落とし、幕切、人物の出入り等で舞台の情景を演出します。諸説ありますが、やまびこからヒントを得た効果音だとも言われています。
雪音
雪音は雪バイと呼ばれるバチ先に白い布等で球形に覆った撥を用いて、「ド ド ド …」とゆったりとした間で打ち、しんしんと降る雪を形容しています。非常に柔らかい音色で雪の降り積もる様子を表しています。
正直を言って雪に音はありません。大嘘を付いているわけですが、音が無いものに音を付けるとは、とても面白い歌舞伎の工夫であります。これも強弱によって粉雪から吹雪までを表現しています。
ドロドロ
ドロドロは文字通り「ドロドロ…」と打ち、妖怪、幽霊、変化の登場に用いて恐ろしさや凄みを演出します。
打ち方の違いによって薄ドロ、ドロドロ、大ドロと区別しています。この効果音は笛と合わさることで更に凄みを増します。「ヒュードロドロ…」と聴くと歌舞伎を観劇されたことがない方も耳にしたことがあると思います。
この効果音は歌舞伎の枠を越えて舞台やテレビでも幽霊というと用いられますので大発明ですね!
まとめ:大太鼓は表現力抜群な和楽器
いかがでしたでしょうか!!大太鼓にはこんなにも様々なやくわりがあります。まさに歌舞伎界の山寺宏一さんと呼ぶにふさわしい、歌舞伎にとって無くてはならない和楽器の一つなのです!!
今回紹介をさせていただいたほとんどがほんの一部に過ぎず、まだまだ沢山の音曲や効果音があります。
1つの太鼓からこれだけバラエティ豊かに表現しようとした先人の度胸、また今の時代にも受け継がれる曲に発明した素晴らしさに圧倒されます。
組太鼓などで大太鼓はよく中心に置かれ、その豪快さや体に大きく響く音に目を惹かれます。しかし歌舞伎ではお客様には見えない一歩引いた立場からの音創りだからこそ、これ程の大太鼓の活かし方が産まれたのではないかと思います。
もしも歌舞伎を観劇する機会がある際は、ふと耳を傾けて下さい!そこには興味深い音曲の表現が溢れています!
現在、歌舞伎座等も新型コロナウイルスの影響のため7月以下の公演は延期となり、歌舞伎公演もとても厳しい状況です。しかし今年3月に中止となった歌舞伎座、国立劇場、南座等の歌舞伎公演や明治座で行われた出演者の座談会の様子を、無観客にて収録した動画がYouTubeにて期間限定で順次無料配信されています!
是非この機会に歌舞伎に触れてみてはいかがでしょうか?
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