三味線を教え始めた頃は、伝統的な弾き方を、いかにわかりやすく、噛み砕いて教えるか、ということに注力していました。
どうしたら綺麗に構えられるか?
どんな順序で伝えれば上手にバチが打てるか?
どうやったら飽きずに続けられるか???
いろんな道具も使いました。お腹と三味線の間に毬を挟んでみたり、
バチを持ちやすくするため、手の形にあわせて才尻を削ってみたり…
手をかえ品をかえて、三味線の弾き方を伝える工夫をしてきました。
それらのことがまったく無駄だった、というつもりはありませんが、
本末転倒だった、と今は考えています。
なんのための正しい構えか? どうしてバチはこう持つ必要があるのか?
それまでのお稽古には、そういった視点がすっかり抜けていたのです。
そのことを教えてくれたのは、他でもない、未来を担う子どもたちです。
義務教育課程において何らかの和楽器に触れるようにと「学習指導要領」に記載されてから、
ありがたいことに、小中学校で三味線の授業をしています。
ある日のある教室で、バチをひとりずつ手渡していたとき、
好奇心旺盛なその少年は、バチを受け取るなり、いい音で弾きはじめました。
とても楽しそうです。
はじめて耳にするその音に、教室全体の関心は急上昇。
そのときの彼の右手をよく見たら、バチをグーで握っていました。
それを見た当時の僕は、伝統的な方法に従って
「小指は、他の指と違って手前で握りこむように…」云々と言います。
いい音が出てすっかり上機嫌だった少年は、言われた通りの握り方で弾いてみると…、
バチはまったく糸に当たらず、うまくバチを握れないばかりか、
小指を痛めて、さっきまでの楽しそうな表情は一変。
三味線への興味が急激に薄れていきました。
伝統的な方法を伝えたために、少年のなかに芽生えた三味線への関心が、萎えてしまった瞬間でした。
その時から、僕は考えるようになりました。
三味線とはどんなものか? どんなに楽しいものか?を理解する前に、
伝統的な弾き方を伝えることに意味はあるのか?
その日から、これまでの指導法を自戒しながら、まったく新しい指導に取り組んできた結果、
超かんたんしゃみせんは生まれました。
超かんたんしゃみせんは、これまでにない新しい視点で三味線をとらえ、
伝統的な弾き方よりも先に、楽器としての三味線の楽しさを感じていただくものです。
伝統 < 楽器
伝統よりもまず、三味線を楽器として楽しんでいただければ幸いです。
譜尺、貼るべし、あるいは印、書くべし。
三味線を弾く前に、まずは姿勢を整えて…、なんて、最初は言いません。
超かんたんしゃみせんで、弾く前にすることはひとつだけ。
譜尺(ナンバーシール)を貼るべし、あるいは印、書くべし。
左手の指で棹を押したとき、いい音がするポイントのことを、
三味線ではツボと呼びます。
このネーミング、絶妙ですよね。
耳ツボ、足ツボ、癒しのツボ、ってな具合に、
三味線もいいツボを押せば、ビビッ!と響いて、疲れがふっ飛びます。
このツボを数字で表記したものが譜尺(ふじゃく)。
ただし譜尺の数字は、あくまでも目安。
駒の位置やチューニングによって、ツボが多少、前後することは覚えておいて。
ギターやウクレレのようにフレットがある楽器は、
12音階で決められた音しかでないけど、
フレットレスな三味線は、ちょっとツボを変えるだけでいろんな音がするのが特長。
同じ曲でも、奏者によって微妙にツボが違ったりってところが味(あじ)となります。
その特長を過大に評価するあまり「譜尺不要!」と唱える人もいるんだけど、
いやいや、その特長がわかるまでは、あったほうがいいって。
駒の位置を変えたら、ツボが変わった!とか、
あの人のツボ、マイナー気味で味がある!とかいう発見も、
譜尺があればこそ。
譜尺を目安に、初心者でも音程がわかるんだから、
こんな便利なもの、貼らない手はありません。
ツボを表す数字がシール状になった「ツボシール」を200円前後で購入し、棹にピタッと貼っちゃおう。
あるいは、適当なシールにツボを書いて貼るところから、お稽古スタート!
ドレミファソラシドでツボ、チェック!
おそらく多くの人にとって、最もなじみのある音階ドレミファソラシド。
これ、師匠クラスの方も弾けなかったりします。
なぜなら、伝統的な日本の音階ではないから。
でも、三味線で弾けますよ。弦楽器なんだもの。
超かんたんしゃみせんで最初に試してもらうのは、
ドレミファソラシドを細い糸(三の糸)で鳴らすこと。
左手の指で糸を押さえながら、右手の指で糸を弾くと音程が変わる。
そんな弦楽器の基礎的な仕組みを、
ドレミファソラシドの音階を通して、まずは体感してみよう。
三味線に出逢って最初に弾くのがドレミファソラシドだったら、
三味線=楽器という印象が強くなることでしょう。
その一方、姿勢や作法に関する講釈を最初に耳にすると
三味線=伝統というイメージが先行するかもしれません。
もちろん、どちらも正解なのですが、
大切なのは、三味線に興味をもった人が、
どちらも選べる環境と、選択できる自由があるということ。
一方の選択肢を広げるために、
超かんたんしゃみせんはあると思ってます。
三味線に興味をもったあなたは、
楽器か伝統か、どちらの出逢いを、のぞみますか?
せっかくなので、何か一曲…!?
そーなんです。ドレミファソラシドが弾けたら、曲が弾けちゃうんです。
音楽、苦手だったしーとか、言わないで、まずは、やってみよー。
ドレミ~、ドレミ~、ソミレドレミレ、これは「チューリップ」。
ドレミファミレド~、ミファソファソファミ~、これは「カエルのうた」
ってやっているうちに、ホラ,1曲弾けちゃう!
もうあなたは、三味線で1曲、弾けてるよ!
ここでお伝えしているドレミファソラシドは、「移動ド」の原則に基づきます。
つまり、左手で何もおさえずに細い糸(三の糸)の開放弦を弾いて、
その時に聞こえた音を「ド」とする考え方。
だからこの時点では、チューニング不要。
な~んていうことは、音楽理論が好きな方と、
絶対音感が染み付いてしまった方だけがご理解いただければ結構。
次回からはさらに掘り下げて、三味線を楽しく学ぶためのノウハウをお伝えしていきます。
難しいことは置いておいて、超かんたん!に、三味線をお楽しみください!
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